【column】外国製シンセサイザーミュージックはアンデスを受け入れたか(2) 興隆期(70年代後半)
【column】外国製シンセサイザーミュージックはアンデスを受け入れたか(2)
興隆期(70年代後半)
特別企画の続き。
1960年代以降の商業的アンデス音楽の歴史は、海外から流入したロック、フュージョンなどの影響を考えずには語れない。
では逆にアンデス音楽が世界最先端の音楽に影響を与えたことってあったのか。
ここでは、かつて隆盛を誇った外国製電子音楽に限定し、シンセサイザー奏者がアンデス音楽に何らかの影響を受けたことがあったのかどうかを検証してみよう。
(ちなみに各アルバムにつけた星の多寡はその盤の優劣を評したものではない)。
2 電子音楽の興隆期

②ADRIAN WAGNER / THE LAST INCA (1978)UK
エイドリアン・ワグナー 『ラスト・インカ』
ワグナーである。
なんて紹介のされ方はきっとご本人いい加減うんざりされているだろうが、英国に移住して来たリヒャルト・ワグナーのご子孫なのである。実は彼こそ、「インカ」をテーマにオリジナル・アルバムをリリースした最初のシンセサイザー奏者である。
エイドリアン・ワグナー Adrian Wagner は現在となっては「知る人ぞ知る」といった存在となってしまったが、70年代英国においては数少ないシンセサイザープレイヤーとして高評価を受けていた人物。
それもそのはず、英国でのEMSシンセサイザー販売に携わり、その開発・普及に尽力していたという人物なのだ(日本でも冨田勲がモーグの輸入に際して税関通過や操作方法で大層難儀したというのは有名なところ。ワグナーの如き先達は大変貴重だったであろうことは想像に難くない)。
唯一日本盤としてリリースされたのがここで取り上げるアルバム『ラスト・インカ』(1978)。あえて各曲バラエティに富んだスタイルとすることで1枚を飽かせることなく聴かせようという仕掛けの佳作だ。※
実はフォルクローレファンにはのっけから意表を突いたプレゼントがある。
もはや古典曲ともいえる「太陽の乙女たち Virgens del Sol 」がオープニングナンバーなのだ。しかも裏打ちベースを効かせたほんのちょっとスウィングなアレンジ。これがなかなか面白い。ご存知の通り、この曲、もともとメロディ運びがロックのインプロヴィゼーションソロみたいで結構テンション高め。当然盛り上がる。
盛り上げるだけ盛り上げといて突然音楽がストップ、雨の中の鳥たちのささやきをしっとりと歌うM-2につながる。
しっとりしっぽりに続いて初代インカ帝を描いたM-3はテクノっぽく処理されたリズムが気持ち良い。
こうした配列の妙はやはり70年代である。
巧みな配列はB面も同様。
M-6 雄大な風景(恐らくサクサイワマン砦の石積みがテーマ)。
↓
M-7 伊藤詳(元Far east family band)をもうちょいロック寄りにシフトしたような単純でカッコいいナンバー。
↓
M-8 何やらタイトルも曲調もプログレでカッコ良すぎる。恐らく異端審問裁判と火刑をテーマとしていると思われる(何か絵面的にピンクフロイドの『wish your were here』のジャケットを思い出しちゃうタイトルだ)。
↓
M-9 最後は黄金郷をタイトルに据えたエンディングで荘厳に閉幕。
冨田勲のような複雑なレイヤーを聴かせる演奏家もいれば、ややもするとエレクトーンの一発録りみたいなものまで結構あった玉石混合時代。あえて音楽性を統一せずバラエティに富ませ、聴き手を飽きさせない構成のよく練られたアルバムだ。
しかし、それゆえにアンデス音楽の要素を入れる素地は少ない。アンデス要素は「太陽の乙女たち」一曲のみか。
●"Virgins of the Sun"
【物語性】★★★★★ ……豊かな物語性と音楽スタイル
【アンデス音楽要素】★☆☆☆☆……アンデス音楽の要素は感じられないが、"Las Virgens del Sol" のファンクアレンジあり
ちなみに次回の80年代は「シンセサイザー 」というジャンルが一般に定着して全盛期を迎える時期。テレビもラジオも猫も杓子もキラキラしたシンセサイザーの音で溢れた時代。
ところがその一方で「アンデス音楽」というジャンルにとっては冬が到来。日本やフランスのブームが急速に冷め、そういった国々での新譜発売がほとんど存在しなくなるのである。
そのような時代に登場した西ドイツのシンセサイザーユニット、クスコ Cuscoは「インカ帝国」をテーマにしながら、意外なアプローチで成功を収めることになる。
(「外国製シンセサイザーミュージックはアンデスを受け入れたか(3)全盛期(80年代前半)」へ続く)
●注●
日本盤は「アドリアン・ワグナー」との表記。英国盤では2枚にわたる大作だったようである。
興隆期(70年代後半)
特別企画の続き。
1960年代以降の商業的アンデス音楽の歴史は、海外から流入したロック、フュージョンなどの影響を考えずには語れない。
では逆にアンデス音楽が世界最先端の音楽に影響を与えたことってあったのか。
ここでは、かつて隆盛を誇った外国製電子音楽に限定し、シンセサイザー奏者がアンデス音楽に何らかの影響を受けたことがあったのかどうかを検証してみよう。
(ちなみに各アルバムにつけた星の多寡はその盤の優劣を評したものではない)。
2 電子音楽の興隆期

②ADRIAN WAGNER / THE LAST INCA (1978)UK
エイドリアン・ワグナー 『ラスト・インカ』
ワグナーである。
なんて紹介のされ方はきっとご本人いい加減うんざりされているだろうが、英国に移住して来たリヒャルト・ワグナーのご子孫なのである。実は彼こそ、「インカ」をテーマにオリジナル・アルバムをリリースした最初のシンセサイザー奏者である。
エイドリアン・ワグナー Adrian Wagner は現在となっては「知る人ぞ知る」といった存在となってしまったが、70年代英国においては数少ないシンセサイザープレイヤーとして高評価を受けていた人物。
それもそのはず、英国でのEMSシンセサイザー販売に携わり、その開発・普及に尽力していたという人物なのだ(日本でも冨田勲がモーグの輸入に際して税関通過や操作方法で大層難儀したというのは有名なところ。ワグナーの如き先達は大変貴重だったであろうことは想像に難くない)。
唯一日本盤としてリリースされたのがここで取り上げるアルバム『ラスト・インカ』(1978)。あえて各曲バラエティに富んだスタイルとすることで1枚を飽かせることなく聴かせようという仕掛けの佳作だ。※
実はフォルクローレファンにはのっけから意表を突いたプレゼントがある。
もはや古典曲ともいえる「太陽の乙女たち Virgens del Sol 」がオープニングナンバーなのだ。しかも裏打ちベースを効かせたほんのちょっとスウィングなアレンジ。これがなかなか面白い。ご存知の通り、この曲、もともとメロディ運びがロックのインプロヴィゼーションソロみたいで結構テンション高め。当然盛り上がる。
盛り上げるだけ盛り上げといて突然音楽がストップ、雨の中の鳥たちのささやきをしっとりと歌うM-2につながる。
しっとりしっぽりに続いて初代インカ帝を描いたM-3はテクノっぽく処理されたリズムが気持ち良い。
こうした配列の妙はやはり70年代である。
巧みな配列はB面も同様。
M-6 雄大な風景(恐らくサクサイワマン砦の石積みがテーマ)。
↓
M-7 伊藤詳(元Far east family band)をもうちょいロック寄りにシフトしたような単純でカッコいいナンバー。
↓
M-8 何やらタイトルも曲調もプログレでカッコ良すぎる。恐らく異端審問裁判と火刑をテーマとしていると思われる(何か絵面的にピンクフロイドの『wish your were here』のジャケットを思い出しちゃうタイトルだ)。
↓
M-9 最後は黄金郷をタイトルに据えたエンディングで荘厳に閉幕。
冨田勲のような複雑なレイヤーを聴かせる演奏家もいれば、ややもするとエレクトーンの一発録りみたいなものまで結構あった玉石混合時代。あえて音楽性を統一せずバラエティに富ませ、聴き手を飽きさせない構成のよく練られたアルバムだ。
しかし、それゆえにアンデス音楽の要素を入れる素地は少ない。アンデス要素は「太陽の乙女たち」一曲のみか。
●"Virgins of the Sun"
【物語性】★★★★★ ……豊かな物語性と音楽スタイル
【アンデス音楽要素】★☆☆☆☆……アンデス音楽の要素は感じられないが、"Las Virgens del Sol" のファンクアレンジあり
ちなみに次回の80年代は「シンセサイザー 」というジャンルが一般に定着して全盛期を迎える時期。テレビもラジオも猫も杓子もキラキラしたシンセサイザーの音で溢れた時代。
ところがその一方で「アンデス音楽」というジャンルにとっては冬が到来。日本やフランスのブームが急速に冷め、そういった国々での新譜発売がほとんど存在しなくなるのである。
そのような時代に登場した西ドイツのシンセサイザーユニット、クスコ Cuscoは「インカ帝国」をテーマにしながら、意外なアプローチで成功を収めることになる。
(「外国製シンセサイザーミュージックはアンデスを受け入れたか(3)全盛期(80年代前半)」へ続く)
●注●
日本盤は「アドリアン・ワグナー」との表記。英国盤では2枚にわたる大作だったようである。
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