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フォルクローレなど、アンデス諸国の名盤をご紹介するレビューです! 独断・偏見、何でもアリですのでご容赦を!

ジャケットまでポストロック!……グルーポ・アイマラ

2018年01月28日
Grupo AYMARA 2


グルーポ・アイマラ/クルトゥラ・アンディーナ
【Grupo AYMARA/Cultura Andina】(1980)


部屋にLPレコードのジャケットを飾っている。
そこに奥さんから一撃。
「何で同じレコードを2枚も3枚も買うのかな」

何でって、男は収集癖のある生き物なのだ。
レコード買っちゃうんだよ、聴きもしないのに。
楽器買っちゃうんだよ、弾けもしないのに。
ポルシェ買っちゃうんだよ、スズキしか乗らないのに。
軽井沢の別荘買っちゃうんだよ、引きこもりなのに。
えっ盛りすぎ。
見栄張っちゃうんだよ、安月給なのに。※1

l 当たりが出たら
そもそもこのアルバム、「当たり」が出るまで断固買い続けなければならない。
えっ当たり。
初回盤のことだ。
実はこのLP、初回盤と再発盤でジャケットに大きな相違点がある。
おやおや、ジャケットなんかどうでも良いじゃん、と思ってる君。

近頃のダウンロード世代やストリーミング世代からは鼻で笑われるかもしれないが、70年代ロックは、ジャケットをじっくり眺めることからアルバム鑑賞が始まるのだ。

「ちょっと待て、70年代ロック?」」
「 グルーポ・アイマラはどう聴いたって伝統音楽だろ?」と仰る方。
以前に書いたこのページをお読みいただきたい。
このアルバムのサウンドがサイケ・ロックのエル・ポレンから受けた影響について述べている。サウンドがロックの影響を受けているなら、当然ジャケットだってロックの影響を受けているに決まっているのだ。

これだ。



どこが?と訝る向きもあろう。
だってこんなジャケットだ。
バリバリ土臭さというか、ボリボリボリビア臭さしか感じない。
そこで初回盤だ。再発盤と何が違うって,



ほら。




これは凄みがあるね。
びびるね。

「いや、さっきと同じ絵じゃん」とか眠たいこと言ってる場合じゃないで。
アーティスト名、アルバムタイトル、レコード会社名、商品番号、著作権の注意書き……ジャケット表裏のどこを探しても文字が1つもない!
先ほども述べたが、ジャケット鑑賞からアルバムを味わう行為は始まっているのだ。「商品」である前に「作品」であるという主張と戦略性。これは凄い。
そもそも、ボリビアのレコードの印象といえば、うっかりすると折れちゃうほどのペラジャケ、背表紙なし、こすれてハゲる印刷、カラー印刷は表だけ、両面1色印刷だって普通、他のアーティストのジャケットの使い回し、シールで訂正などなど……。ジャケットも含めたパッケージ作品としての「アルバム意識」が異常に低く、徹底した低コスト。そんなボリビアで、ここまで冒険が出来たことは衝撃的ですらある。
これは明らかに米英ロック界での成功事例があったことが大きい。

l 永遠の名盤の証「文字なしジャケット」
70年代ロックの名盤・金字塔として名高い以下の2枚のアルバムには共通項がある。実は両アルバム共に、ジャケットに文字が全く入っていないのだ。


サンタナ / サンタナIII(1971.9)


レッド・ツェッペリン / レッド・ツェッペリンIV(1971.11)

正式なタイトルさえ存在しないこの2枚が両者ともに名盤だったのは偶然かもしれない。しかし、一個の「作品」として自信を持ってリリースされたであろうことは想像に難くない。いずれにしても、ロック市場の成熟した英米で成功を収めたこの2枚の前例がなければ、絶対不可能な企画である。
あえてアウトクトナを封印してムシカ・クリオージャに限定した前作からうって変わり、ほぼムシカ・アウトクトナ1本で勝負をかけるトンガった自信作である。それはそれは、ジャケットにも力が入っただろう。※2、3

ちなみに図柄に関してだが。
大胆なパースの人物像(大地母神パチャママを思わせる先住民女性の半裸)は、サンタナの2nd「天の守護神」と3rd「サンタナIII」を思わせるが、間違いなくメキシコの壁画画家シケイロスへのオマージュである。


シケイロス「彼女の鎖を解く民主主義を描いた壁画の眺め(1934)」

ん?今回、ジャケットばかりで音楽そのものについて述べていないって?
内容についてはポレンのページで触れたし。
まあ、ジャケットにここまでこだわる意欲作だってこと。

●注●

誤解なきように言っておくが、スズキは名車が多い。いや、名車まみれ、といってよい。私も平成8年に買った白ナンバージムニーにかれこれ20数年間乗り続けている。ヤバイよ、本当にヤバイ。依存症になるよ。


「ほぼ」アウトクトナと断ってある通り、実は9曲中9曲がアウトクトナというわけではなく、8曲目「INTIU KHANA」のみはムシカ・クリオージャ。焼肉食べ過ぎのもたれた胃を爽やかにするウーロン茶のごとしである。そこで、「アウトクトナが苦手」とか「興味ない」という人にもこのアルバムをあえてオススメする。暑い夏に風呂入って、最後に飲むビールの清涼感を味わえるだろう。私は酒は飲まないから、清涼感かどうか知らないけど。


初回盤はボリビアでは珍しく見開きジャケットなのだ。
こちらは中ページ。





●Grupo AYMARA / Navidad en Altiplano
88年のアメリカライブ盤から。出来うる限り良い再生環境でお聴きいただきたい。アウトクトナは和太鼓と同じで生の迫力が命なのだ!


【アルバム・データ】
<LP>
"Grupo AYMARA / Cultura Andina"
SLPL-13395(1980)
Disco LandiaLYRA/(BOLIVIA)
01 NAVIDAD EN EL ALTIPLANO a) Jiscka Imillita b) Llaqui Chuyma
02 KHANTO a) Aykuna b) Yawar Mallku
03 TODOS SANTOS
04 JAIRA LLOCKALLA
05 KASARJETA
06 CULTURA ANDINA a) Puna b) Jacha Ayllis c) Kusisthawi
07 EVOCACION A LOS APUS
08 INTIU KHANA
09 HUAYRURITO

●CD化はされていない。名盤揃いのグルーポ・アイマラだが、アナログ盤でCDリイシューされたボリビア盤はおそらく1stアルバムだけなのではないか。



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この記事を書いた人: もち
歴史に関する仕事をしています。たまに頼まれてデザインや文章・編集などの仕事をしたりもします。
専攻は「アンデスの宗教変容」でしたが、最近興味があるのは16世紀頃から戦後まで、日本についてばかりです。考えてみれば、最近は洋菓子より和菓子です。

このサイトでは、フォルクローレなどアンデス諸国のさまざまな名盤を紹介したいと思います。

コメント2件

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かなざわ

グルーポアイマラはプログレですよね!ロックからやってくると違和感ないくらいです。

2019年04月12日 (金) 00:14
もち

もち

To かなざわさん

いや本当に金澤さんは話が分かる!

多分に多くのフォルクローレ好きな偉い人が「いや、違う!インカの伝統音楽だ!」とかって真っ赤になって起こりそう。

2019年04月13日 (土) 02:08