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もち

フォルクローレなど、アンデス諸国の名盤をご紹介するレビューです! 独断・偏見、何でもアリですのでご容赦を!

ロマンチックあげるよ……ヌエバス・ライセス

2012年02月26日
NUEVAS RAICES 4

【 NUEVAS RAICES / FLORCITAY DEL CAMPO 】(1990)

あくまで80年代の話だが。
ボリビア・フォルクローレの不動の地位を誇っていたのはやはりカルカス Kjarkas だった。そのスタイルを真似たバンドでボリビア音楽市場は溢れかえった。まるでそれ以外の音楽はないかのような錯覚を覚えるほど。しかし、ものまねはしょせんものまね。悲しいかな、カルカスを超えるようなバンドがなかなか現れない。

それは当たり前だ。

カルカスには表現したい独自の世界があり、そのためにあのアレンジ、スタイルを独自に生み出し、そのサウンドのために新しい楽器「ロンロコ」まで作るという徹底ぶりだったのだ。当時の若手がただの憧れでカルカスの真似をしても、これではカルカスにかなうはずがない。本当に「表現したいこと」があれば、それにそった手法をとるべきなのである。カルカス自身がそうであったように。そうでなくば、ただの劣化コピーにすぎない。


l 確かにカルカス・スタイルなのに
では80年代、雨後のタケノコのように溢れかえったカルカス・スタイルのバンドはみんなダメなのか。いや、カルカス・スタイルを継承してなおかつ独自の世界をつくり、傑作を生み出すというバンドもいくつか存在していた。

その一つがヌエバス・ライセス Nuevas Raices である。
ラパス出身者のサウンドは、丸山由紀氏の表現を借りれば「エッジの立った」傾向を持つことが多い※1。しかし、彼らはラパス出身でありながら、ある意味カルカス以上にカルカス的コチャバンバ・サウンドを突き詰めたバンドである。

ボンボでドン・ドン・ドンドンドンとリズムを取る。
ギターは、いわばベースのようなパートを担当。
チャランゴがリズムを取る中、美声のボーカルが流れる。
歌のサビの後は、サンポーニャがソロでメロをとる……。

確かに、聴いてみれば完璧なカルカス・スタイル。なのに、リズムの取り方なのか、歌い方なのか、とにかく全てが美しい。

l カルカスにない表現「ゆったり」
彼らの手にかかれば、ウァイニョも、カルナバルも、バイレシートも、サヤも、モレナーダも全てのサウンドが独自のヌエバス・ライセス節。なんか耳元でゆったりと囁くみたいに歌う(実際にはとりたててテンポが遅いというわけではないのに、「ゆったり」感じてしまう!)。

それでいて、アルバム1枚を飽きさせることなく、あの手この手と話題も豊富。聴かせる。これはモテるわ(←?)。どちらかというとスピードチューンとかバーバリスティック系に燃えちゃう私が、このアルバムにメロメロなあたりでもう説明不要。カルカスの多数ある要素の中から、「モテモテ」要素を抽出したとしか思えないほどの徹底したコンセプトづくり。いや、この「ゆったり囁き」加減はカルカスにはない! もうロマンチックがとまらない。殿っ、陥落ですぞー。

単にコーラスが美しいというだけならグルーポ・アマル Grupo AMARU に任せておけば良いのである。リズムの切り方、ボーカルやコーラスの取り方、アレンジの手法、全てがヌエバス・ライセス独自のサウンド、彼らの演奏だけが持つ独特の世界観がある。

結局、聴きたいのはそういったオリジナルのサウンドなのだ。
聴いたことのない新しい世界を見せられた時、我々は「名盤だ」って興奮する訳だ。※2

【注】

月刊『ラティーナ』「ボリビア音楽再入門講座 動きゆくフォルクローレ・シーンは今」瀬木貴将(談)丸山由紀(文)1998年6月号

現在、結成時より残っているメンバーはハビエル・マンティージャ1名のみ。当然、そのコンセプトは維持できず、一聴して分かるようなサウンドの特徴は現在は持っていない。名前が同じだけで根本的に全く別のバンドになったと考えるべき。



●"Florcitay del Campo"


●"Quiero Saber"


【アルバム・データ】
<LP>
"NUEVAS RAICES / FLORCITAY DEL CAMPO"
SLC-13690(1990)
Disco LandiaLYRA/(BOLIVIA)

01 FLORCITAY DEL CAMPO (huayn~o)
02 PARA DECIRTE ADIOS (cueca)
03 EL CARRETERO (taquirari)
04 QUIERO SABER (saya)
05 CUANDO AMANEZCA (polka)
06 DEJAME ABRAZARTE (sicuri)
07 A BOLIVIA (cueca)
08 SIN SABER DE TI (taquirari)
09 SIEMPRE TE ESPERO (saya)
10 COPACABENEN~A (K'aschuiri)
●当然というか、やっぱりというかこのままの形でのCD化はされていない。


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もち
この記事を書いた人: もち
歴史に関する仕事をしています。たまに頼まれてデザインや文章・編集などの仕事をしたりもします。
専攻は「アンデスの宗教変容」でしたが、最近興味があるのは16世紀頃から戦後まで、日本についてばかりです。考えてみれば、最近は洋菓子より和菓子です。

このサイトでは、フォルクローレなどアンデス諸国のさまざまな名盤を紹介したいと思います。

コメント4件

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ゆな

モテたのは確からしいw

うちのEx Nuevas Raicesの記事からトラックバックしようとしたのですが、送られてないでしょうか。。。

私がNuevas Raicesについて認識したのはIshino氏がLuis Gutierrezについて熱く語っていたのが第一印象なので、彼とEdwin Pantojaの脱退によって、音楽的本体はAyraに移ったものと思っていたのですが、Ayraについてはいかが評価されますか?そして上記Exな方々。。。
http://www.youtube.com/user/Heq30/videos

ちなみに、Nuevas Raicesがペーニャでやっていた頃は、各メンバーに5~6人取り巻きがいて、演奏が終わると30人くらいの女の子を連れて飲みに行っていたそうです。でもAyraではメンバーも客もいい歳なので、もう静かなもの、という話。

2012年03月19日 (月) 07:13

もち

やっぱり

じつはこの原稿あげたときに、一緒にアップしようとして彼らのサウンドをスケコマシなイケメンに例えた4コマ漫画も描いてあったんですが、漫画そのまんまだったんですね(笑)

さて、EXですが、最高!
現 Nuevas Raicesが、「Nuevas Raices」を名乗っていることに対して、私は失望感・苛立があるみたい。大人げない。だから、EXには嬉しくて現 Nuevas Raicesに「ざまーみろ」とか思ってしまいました。やっぱり大人げない。だから、AYRAに関しては、現Nuevas Raicesより絶対的に評価したい。大人げないけど。現Nuevas RaicesなんかよりAYRAの方が明らかにホンモノですよね。サウンド的に。

ただ、私のNuevas Raices観にはある種の偏見がありまして。

根拠は全~くないのですが、Nuevas Raicesサウンドの「ゆったり囁き感」に貢献しているものの一つに、「過剰気味のエコー」があるのです。だとすると、PAこそが影のメンバー(笑)。Nuevas Raicesとして出したわずか2枚のLPが完璧すぎるので、ここでNuevas Raicesは死んだ(笑)と。そう考えています。

【追伸】
トラックバック、設定が間違ってました。すみません!

2012年03月20日 (火) 04:01

ゆな

囁きのルーツは、、、安全地帯!?

たまーにチャットするLuis Gutierrez氏(まだ友達の友達くらいの距離感)に、勢い余って「Ex Nuevas Raicesのビデオ見た!メチャ良かった!見てて飽きないわ~」と送ったところ、向こうからもぼちぼち話しかけてきたのですが、、、この人私よりずっと日本の音楽詳しい(私が知らなさ過ぎとも言う)…orz

以前も平井堅とかの話はしていたのですが、安全地帯、山下達郎、原田真二あたりで青春時代を過ごしたクチだそうで、「玉置浩二の歌は個人的に2曲程カバーして録音したことがある」というほど。彼らの音楽の独特さには、実は日本のポップスの影響も?それをまた日本で「良い!」と言ってるって、とても不思議な感じです。

2012年03月22日 (木) 23:10

もち

いや、それは…すごい

ゆなさん、それはスゴい情報です……。軽いショックを受けています。おもわず、震えちゃいます(おおげさ?)。多分、その話を知っていれば、この原稿、まず間違いなくそのこと中心の内容になってましたねw 

たしかに「安全地帯」って言われると納得せざるを得ない……。説得力あり過ぎです。

それにしても、日本の音楽に興味を持つ外国人がいるなんてこと自体が、ネットやアニメなどの影響で日本オタクが増えたここ最近の話であって、『島唄』以外ほとんど相手にされていなかったのに。そもそも20~30年前なんてネットもなかったし、日本の音楽情報をどうやって入手していたのかを考えると、夜も眠れなくなっちゃいます(笑)

2012年03月23日 (金) 01:26