これを聴け!
もちづき しょういち

フォルクローレなど、アンデス諸国の名盤をご紹介するレビューです! 独断・偏見、何でもアリですのでご容赦を!

トロットロの食べ頃ハッチャ・マリュク

2008年02月23日
JACH'A MALLKU 2

【 JACH'A MALLKU / Quisiera quererte mas … 】(1996)

バナナはいつ頃食べるのがお好き?
「まだ皮に青みがあるくらいがレジスタンススターチが含まれていて健康に良い!」とか
「皮が完全なイエローでないと購入意欲がそがれる」とか
「皮に黒いスイートスポットが出現するくらいがスイーツ」とか色々な好みはあるだろう。

でもやっぱりバナナは皮に黒い斑点が出てからが勝負でしょ?
そもそも「太りにくいからうまい(?)」なんてのは自己欺瞞である。
実際、多少傷んでくるあたりが一番甘くてトロトロではないか。

なんでも腐っちまう手前が一番ウマいものなのかもしれない。
旨味全開というか。

バナナ。パパイヤ。マンゴー。パイナポー。
追熟させてブニュブニュに柔らかくしたものは甘くて感動する。
女性も魅力が爆発するのは……はっ、あわわわ。

でも、これは食べ物に限った話ではないだろう。
人生や音楽にも当てはまるのかもしれないぞ。
積み重ねたものがあるからこそ、徐々に成長して枯れる直前に光り輝く。最高に美味しくなる。
これで最後。絶頂に達し、今しかないという最高・至高・究極の音楽。
あとは煮詰まって腐って土に帰るだけ。

今回はそんな超新星理論な1枚。
ハッチャ・マリュク、96年リリース作品である。

90年代半ばあたりからボリビア音楽界にはちょっとした変化が起き始めていた。
カラ・マルカ Kal'a Marka が飛び跳ねるようなトバスのリズムを流行らせ、ベースやサンプリングマシンを多用するダンスチューンを繰り出すようになると、多くの若手がこれに追随。

汎ラテンアメリカ的なクンビア、チチャなどのブームの影響をもろに受け始めたのだ。今や専門レーベルまで登場する始末。当然エレキ・ベースとデジタル・パーカッションは必須。これらの機器の使用で、より安易に真似でき、クラブでもウケまくるダンス・ミュージック一辺倒の時代が到来。
こういったレーベルからティンクやトバスばっかりやってる新人バンドが続々デビューしている。
※1

一方、もともと現地ではダンス・ナンバーの人気が高かったハッチャ・サウンド。高度なテクニックに裏付けされたオリジナル性溢れるサウンドは、あれだけ絶大な人気を誇りながら……誰も追随しなかった。否、できなかっというべきか。さしものハッチャ・マリュクもこうした潮流に抗えなかったのか、グループの意義自体を変えていく。

モレナーダクジャワダなどというクラブ受けのよい、わかりやすいダンスチューン一辺倒になってしまったのだ。
日本でいえば盆踊り用「音頭」ばかり20曲ノンストップのアルバムといった風情である。
1曲目は面白くてワクワク。
2曲目で興奮絶頂。
3曲目も同じ料理なの?お腹いっぱい。
4曲目でゲップ。
5曲目、耳穴からヘド吐くわ。

もはや「観賞用」ではない。
そういった意味で、96年にCDリリースされた"Quisiera quererte mas ..." は大変貴重な一枚なのである。※2

そう。方向転換前の最後の1枚なのだ。
しかもその内容が凄い。

まさに、腐る前の果実なのである。
一生を終える前に最後の輝きを放つ星の光なのである。
アルバムごとに洗練と凄みに磨きをかけてきたハッチャサウンドの最終到達地点。
まだ現役のグループなのに、このアルバムが「最高傑作」なんていわれ、すでに10年以上経過してしまったあたりがすべてを物語っている。ただのモノマネではないオリジナルな方向を突き詰め、ついにたどり着いた境地なのだ。
全曲聴いてもオカワリが欲しくなること請け合いである。

実は当初のオリジナルメンバーはこの時点で2人しか残っていない。
しかし、この当時のメンバーはハッチャ・マリュク最強のメンバーといってよい。

・この声なくしてハッチャはならず、フランツ・チュキミア。
・当アルバムをプロデュース、フルビオ・バリョン。

・チャランゴはインティ・ボリビアのサウル・カジェーハス!
・ズビズバ・サンポーニャといえばゼイナルド・ベガ!
・ケーナは強烈なドライヴをかますカリスマ・ケニスタ、エディ・リマ!

あまりに激しいフレージングで最高の人気を誇るケニスタ、エディ・リマはこの1枚のみ録音して脱退しており、そういった意味においても「ハチャ・マリュク史上最高の名盤」との評価は不動のようである。

いきなりM - 1でフルビオ・バリョンのアイマラチックな生々しいボンボの音からスタート。いかにもハチャ・マリュクらしいラ・パス系サウンド。M - 5のトローテは以前ご紹介した"Tierra de Condores"の系譜を継ぐスピードチューンだが、エディ・リマのケーナの突抜けたプレイが飛ばすのなんの!ここから表題曲M-6への流れがクライマックス。ゼイナルド・ベガやエディ・リマのビエントスがドライブする中、フランツ・チュキミアが力の限り声をのばす。彼の新境地ともいえる素晴らしいヴォーカル。癖のあるヴォーカリストかと思っていたが、このようなヴォーカルがドライブするナンバーは実にウマい。

DIC資料館のIshino氏によると、この曲は99年度上半期ボリビアフォルクローレ・ヒットチャートでも7位にランクされていたというから、この1曲で少なく見積もっても3年連続チャート入りということになる。


"Quisiera Quererte Mas"

【注】
※1 
実は、求められる音楽というものは時代や社会背景と常に寄り添っている。ミュージシャン自身の生活というものだってある。音楽面でいうと、90年代は世界的にもロックの衰退とダンスミュージックへの移行が大変な勢いで進行した時代である。社会面では、99年以降の急激なボリビア経済の崩壊があった。その影響は現在にいたっても回復できないままである。こうした背景にあるものが多少なりとも変わらなければ、ボリビア音楽全体の傾向が変わることはしばらくないのかもしれない。確かにモラレス大統領の登場はボリビアにとって大きな変化ではあるが、それが庶民の生活、ひいては商業音楽支持層の生活にいつどのような影響があるかは依然不透明である。 

※2
そもそもハッチャ・マリュクの魅力って何?
カルカス・スタイル一辺倒だったフォルク界に、颯爽と殴り込みをかけたハッチャ・マリュクのあまりにオリジナリティ溢れるサウンド。ラ・パス臭ぷんぷんの音楽を作っておきながら、洗練された感覚を併せもつ独特のサウンド( 05/10/08 「ハッチャが凄い理由」参照)。その世界観を体現すべく集結したそうそうたるメンバー。それゆえ、当時、彼らはポスト・カルカスとも目され、内外で大人気を誇ったものである。いや、今となっては「そうだったっけ?」「記憶にございません」「過大評価」という向きも多々あるかもしれない。しかし、その時代の「空気」というものは忘れちゃうものである。

彼らの方向転換は、直接的にはチチャやクンビアの南米中での大ブームの影響であると思われる。ボリビアでもペルーのアグア・ベジャのようなチチャ・クンビアの量産がなされている。たしかに、これらリズム系の形式の曲は結成当初より彼らの大きな要素の一つだった。しかし、今まで彼らの音楽がボリビア人だけでなく、外国人をも虜にしていたのは、踊れる曲と聴かせる曲との緩急をバランス良く配置していたからである。ところが、この後のCDはすでに「聴く」ためのアルバムではなくなった。深夜のディスコで踊るためのアイテムなのである。


【アルバム・データ】
<CD>
"JACH'A MALLKU / Quisiera quererte mas … "
CCD-51 (1996)
MCB (BOLIVIA)
1. ANTES DE MORIR (Morenada)
2. TU ORGULLO (Cueca)
3. INGRATA NO LLORES (Huayn~o)
4. AL VOLVER DE ORUO (Caporal)
5. AUSENCIA (Trote)
6. QUISIERA QUERERTE MAS (Cancion-Chuntunqui)
7. MI GRAN HERIDA (Taquirari)
8. BAILANDO MORENADA (Morenada)
9. JACH"A SICURI (Sicuriada)
10. DANZA DEL INCA (Polca Cancion)

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もちづき しょういち
この記事を書いた人: もちづき しょういち
歴史に関する仕事をしています。たまに頼まれてデザインや文章・編集などの仕事をしたりもします。
専攻は「アンデスの宗教変容」でしたが、最近興味があるのは16世紀頃から戦後まで、日本についてばかりです。考えてみれば、最近は洋菓子より和菓子です。

このサイトでは、フォルクローレなどアンデス諸国のさまざまな名盤を紹介したいと思います。

コメント2件

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Akaru

初期のものはCD無し~

風邪をひいて1ヶ月近く笛は吹けず、声も出ません。この間の楽しみは聴くことだけ。音源探しに来てみると、わ~い!もちさんのところが更新されてる!
何々Jach’a Mallku・・・実は私は国際先住民年の影響をうけ、2000年ごろからフォルクローレを聴きはじめたルネッサンス世代のAymara育ち、こういったものは盲点になっています。初期のものも聴いてみたい!でもCD無しとはキビシイですね。

2008年02月29日 (金) 19:51

もち

CDの妄想

うわ~、恥ずかしい。更新の遅さに拍車がかかってます(笑)
出張でオーストラリアに出ておりましたが、極度の疲労か、それ以来、我が職場でも風邪が猛威を振るっております。「オーストラリア咳」とか「カンガルー咳」などと呼ばれております(笑)Akaruさんもお大事になさってください。
さて、確かにJACH'A MALLKUの初期盤がCDリイシューされるとは考えにくいですね…。あの当時のJACH'Aのカリスマぶりは今いずこ…。このブログの音源がことごとくCDになって、アンデスの音楽がブラジル音楽みたいに一般的になればいいのに…とか更新もせずにバカな妄想にふけったりしています。

2008年02月29日 (金) 22:40