これを聴け!
もちづき しょういち

フォルクローレなど、アンデス諸国の名盤をご紹介するレビューです! 独断・偏見、何でもアリですのでご容赦を!

恐るべき野心家……ワラ

2005年10月06日
WARA 0

【WARA / HICHHANIGUA HIKJATATA "PAYA"】(1976)

ワラ Wara の3rdアルバム※1

大きな衝撃をもって受け入れられた2nd "MAYA" やユーライア・ヒープのカヴァーを行った4th "QUIMSA" 、 「エンクエントロス」 Encuentros を収録した5th "PUSI"に挟まれ、プログレファンからもフォルクローレファンからもあまり注目されないが、大変なコンセプトを持った名盤なのである。
まさにボリビア音楽の歴史を俯瞰し、また新たな出発点に立とうという野望に満ちたアルバムなのだ。

l ボリビア音楽史の再生
よく聴いてみると全体は3部で構成されている。まずは第1部。

「FIESTA AYMARA」(M-1)。
雑踏のサウンドイフェクトから始まって、アウトクトナ8曲が連続7分56秒にわたり演奏される。ちょっとした大曲だ。後に多くのアウトクトナグループが追随するようになったこの形式はもはや現代では定番。

しかし、もうこの時点で「ああいう似たような音が延々続くのは苦手」という方もおられよう。ちょっと待った。確かに昨今のアウトクトナのCDにありがちな形骸化したメドレーはお腹いっぱいだ。つまらない演奏が多いのも事実かも。だが、まずはさておき、ワラの演奏を聴いてほしい(この盤をお持ちでない人は、たとえばこの当時ワラで演奏していたオロスコ Clark Orosco やルシアーノ Luciano Callejas らが結成したグルーポ・アイマラ Grupo Aymara の初期のアルバムでもよいので聴いてみよう)。

そう、さすがはワラ。
後述するが第2部・3部へとつなげるために、このアルバムのイントロにはアウトクトナが絶対必要だったのだ。
その際、変拍子や転調の激しいプログレの「構成力」というか「手法」をここで発揮したのである。

この「構成力」というか「手法」という表現がわかりにくい方のために、あえて誤解を恐れずポピュラーな1曲を例を挙げてみよう。
クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」である(恐れなさすぎか)。
ポピュラーだからクリムゾンやフロイドさえ売ってないという地方のCDショップでも入手できよう。
この曲はいわゆる「プログレ的手法」を盛んに導入している。
冒頭は「母さん、おれ人を殺しちゃった…」と静かにバラードの導入、「みんなが俺に石投げるんだ!」と徐々にエキサイト。
有名な「ガリレオ~ガリレオ~ガリレオフィガロ~」のくだりの前後は、変拍子や転調が相次ぎ、(くどいようだが、誤解を恐れずに言えば)まるで違う曲を立て続けにつないだかのようなめまぐるしい展開を見せる。
これがプログレなのだというつもりはない。が、そうした手法が他の音楽と比して非常に多く使われるのは事実だ。


ワラの興味深いところは、1曲1曲が調子の違うアウトクトナを「祭りの演奏隊が続々と通り過ぎる」という形を取ってつなげてみせ、まだアウトクトナが鑑賞用の「音楽」として聴かれることの少ないこの時代にドラマティックな組曲に仕立て上げたところだ。※2クレジットを見ればわかるように、この曲は純粋なプログレ・ワラのメンバーであるダンテ Dante Uzquiano オマール・レオン Omar Leon カルロス・ダサ Carlos Daza の「作曲」となっている。個々の曲を採譜したものを繋げて「作曲」とした可能性はあるが、何にせよケーナやチャランゴを担当するために参加したオロスコらグルーポ・アイマラのメンバーによる曲とはされていない。そんなところからもこの曲の意味は見えてくるのではないか。

これを受けて2曲目からは第2部。
ボリビアに存在していた二つの音楽の流れ……クエッカ(「MENTIROSITA」(M-3))などのクリージャ音楽、ウァイニョ(「FROL DE ROSA」(M-4)※3)などのアウトクトナが(途中、ウァイニョをクリオージャ風に演奏する「JAPIRICUSPI」(M-5)などの融合を見せながら)、交互に現れる。

これはボリビア音楽の二大潮流を提示し、融合を見せながらも、山岳地方都市インディオメスティソといった決して混じることのない当時の社会をも反映しており、第2部最後のM-6では、とどめとしてまたもやアウトクトナが演奏される。

l 新たな音楽の創造へ
ここまでのサウンドを聴いていると実に渋い
しかし、である。「何と渋いアルバムか」などと浸ってしまったり、油断したりしていると、7曲目で腰を抜かすはめになる。
ここから最終第3部、一気に畳みかける。  

「ENCONTRARTE」(M-7)でいきなり「ロック」が出現、ボリビア音楽と融合する。
70年代、ケーナといえばひたすら主旋律を奏でる時代。ところが、ルシアーノ・カジェーハスのケーナは主メロを演奏せずに、ドラムスとベースが刻むリズムに従ってひたすらリフを刻み、ペドロ・サンヒネス pedro Sanjines のキーボードがこれに絡みつくようなインプロヴィゼーションで聴くものをシビレさせる。
この曲からアルバムのラストまでは、新たな音楽の創造をめざして一気に誰も聴いたことのない新次元のサウンドへと高まりをみせるのだ。

この曲ではロックにチャランゴやケーナが付いていく感じ※4でまだ硬い融合も、「IMILLITA」(M-9)では、ヴォーカルの合間に心臓の鼓動に似たサヤを思わせるリズムを挿入するなど、有機的な融合がはかられる。
さらに終曲「LEYENDAS」(M-10)では「融合」などといった生硬さを全く見せないオロスコによるチャランゴカルロス・ダサのアコギが、叙情性たっぷりに新しい音楽の創造を歌い上げていく。
そう、そのサウンドは「実験」というにはあまりに美しすぎる
ここに新たな命を得て「ボリビア音楽」が完成したのである。
まさに大きな「解脱感」の余韻を残して第3部は終わる。 

それにしてもその指使い、音の細やかさは力強い美しさと新たなる決意に満ちあふれ、これ以上はないという名演だ。オロスコがもし仮にアイマラの結成をしなかったとしても、この演奏を残しただけで永遠にその名前を語り継がれただろう。※5
これら第3部の曲に添えられた形式名 "proyeccion" は「発射」「伝播」「普及」といった意味。ボリビア音楽を変えた彼らの決意が伺える。


●WARA "Encontrarte"

【注】
※1 
この3rdアルバム「PAYA」、日本のボリビア音楽ファンの間では長らく2ndと思われていた。ワラのHICHHANIGUA HIKJATATAシリーズのタイトル"MAYA" "PAYA" "QUIMSA" …はアイマラ語で「1」「2」「3」にあたるのだからやむを得ない。一方、プログレファンの間ではHICHHANIGUAシリーズ以前の1stアルバム「EL INCA」(オロスコやルシアーノは参加していない生粋のプログレッシヴ・ロック)が、幻の名作として知られており、LP盤は10万円のプレミアが付いていた、いやいや300万円の値がついた、とまでいわれていた。プログレ専門店で"SAMPLER"と書かれたアヤしげな輸入CDが入手できるのみだったが、WARAが自前のレーベルで2001年に大胆にアレンジし直したリメイク盤を発表したのにともない、ボリビアのHERIBAから復刻版が発売された。

※2
もちろん、タイトル通り、パレードが次々と通り過ぎていくという設定だ。しかし、静かな曲から徐々に盛り上がって熱狂的に終わるこの構成を見よ!

※3
ワラがアウトクトナでもすぐれているという証はこの曲。魂をふるわす名演だ。

※4 
この曲、EGはほとんど聞こえないのだが、なによりも後半でとびだすペドロ・サンヒネスのキーボードの盛り上がりが異常にカッコイイ。

※5 
なぜかオロスコばかり誉めてしまったが、なによりこのアルバムを決定づけているのは、ギターのカルロス・ダサとボーカルのダンテ・ウスキアーノ両氏の作曲である。プレイ面ではダサのAGが特筆に値する。9曲目IMILLITAのイントロにあたるPRIMER AMOR (M-10) のソロ、そして終曲LEYENDASにおけるチャランゴとの競演の美しさ、叙情性。もう言葉もでない。



【アルバム・データ】
<LP>
WARA / HICHHANIGUA HIKJATATA "PAYA"(1976)
DISCO LANDIA (BOLIVIA)
1 FIESTA AYMARA (estampa tradicional)
2 ACHACHILAS (danza)
3 MENTIROSITA (cueca)
4 FLOR DE ROSA (huayn~o)
5 JAPIRICUSPI (huayn~o)
6 JAIRA CONTENTO (huayn~o)
7 ENCONTRARTE (proyeccion)
8 PRIMER AMOR (preludio)
9 IMILLITA (proyeccion)
10 LEYENDAS (proyeccion)

<CD>
WARA "MAYA / PAYA"
CD-13822 ( 1993 )
DISCO LANDIA (BOLIVIA)

●1976年に発売されたLPは当然、廃盤。
 ただし、ボリビアではレコードが製作されなくなる時期まで店頭にあったようだ。

●現在は、75年に発表された「HICHHANIGUA HIKJATATA(今見つけられなければならないもの)」シリーズの第一弾「MAYA」とのカップリングで2IN1CDとして発売されている。
●1枚にしちゃうと構成が全くわからないばかりか、聴いていてさすがに疲れてしまうので、是非ともすぐにPAYAだけ1枚のCD-Rに焼くか、MDやHDに落とすなりして楽しむことをおすすめする。


●追加('14.4/3)
2009年にデジタルリマスター盤がリリースされた。

WARA / "PAYA"
CD-13277(2009)
DISCO LANDIA (BOLIVIA)

●せっかくのデジパック仕様なのに、数年間かけてリイシューされたWARAのどの旧作も元のLPジャケを復刻しようとせず、トリミングするわ、変なデザイン加えるわ。
●でもまあ、冷静になればボリビアでデジパック出すだけでも上等。喜ぼう。


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もちづき しょういち
この記事を書いた人: もちづき しょういち
歴史に関する仕事をしています。たまに頼まれてデザインや文章・編集などの仕事をしたりもします。
専攻は「アンデスの宗教変容」でしたが、最近興味があるのは16世紀頃から戦後まで、日本についてばかりです。考えてみれば、最近は洋菓子より和菓子です。

このサイトでは、フォルクローレなどアンデス諸国のさまざまな名盤を紹介したいと思います。

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